米ドル高で金価格安が生じている。ロシアとウクライナは停戦状態、9月5日のミンスク合意が遵守されるかどうか。
全般的に2014年は、中東・東欧での地政学リスクの高まりと欧州への影響が大きく出た年になっている。避難先資産としての金投資には火がつかず、米国株や米ドルに資産が向かう傾向が強まっている。
米ドル上昇に対して金価格は横ばいから下落
ここまで地政学リスクが高まると金価格上昇につながっても不思議ではないものの、投資家は、米ドルの購入へと走っている。その要因を整理してみよう。
●NY金の週足チャート:9月24日の価格は1221ドルとレンジの下限に近い
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地政学リスクの高まりと金融政策の違い
ロシアとウクライナ間の紛争:
ウクライナをEUの方に引き寄せようという欧州の目論見はプーチン大統領の怒りを買うことに。ナポレオン・ヒトラーがロシア侵攻を企てたときもウクライナの雪原がロシアに味方したように緩衝地帯としてのウクライナを失うことはロシア大統領として許されざること。
グルジアのバラ革命、ウクライナのオレンジ革命は米国の援助を得たNPO団体が絡んでいることが明らかになっています。しかし、ウズベキスタンでの革命失敗やウクライナ紛争でロシア側の反撃も強烈。資源の力と反米路線の国を上海協力機構としてまとめあげており、簡単には屈服しない姿勢を見せています。
イスラム国と中東問題
グローバル化における負の側面は、標準化に対する民族の反発。会計基準・ビジネス基準を資本主義および欧米スタンダードに合わせて世界全体の効率を高めるのがグローバル化。逆に言えば民族固有のローカルルールを失くすことにつながります。
ならば、反対勢力が出てくることは当たり前。中東における紛争の根本には、【資本主義の持つ格差拡大】と【民族の自我】という大きな二つのうねりがあることを忘れてはいけません。単純に独裁者・軍事力によるテロ組織という見方をすべきではないでしょう。
実際、イラクの独裁者フセイン政権を打倒した後に出てきたのは、それよりも強力な危険性(語弊があるかも)を持つイスラム国という存在。
米景気回復とドル高
2008年に起きたリーマンショック以降、世界経済の悪化に伴い金利は急低下し金融緩和路線が先進国で定着しました。ヘリコプター・ベンの異名を持つ前FRB議長のバーナンキ氏は、経済危機と戦いお金をばらまく政策を推し進めたのです。お金の供給量が増えたことから金価格は上下動を繰り返しながら上昇し1900ドルを越える高値を付けました。
しかし、2013年4月頃から米国の量的緩和縮小の話が出始め、金価格は暴落を起こすことに。2013年12月18日のFOMCで量的緩和縮小を開始して金は1200ドル台前半に下落。
次は、いよいよ米国の金利上昇が起きるとの観測で米ドルは大きく買われています。金利が上がればそれだけ金利収入が増えるので通貨を持ちたがる人が増えることに。
投資家達は、今、儲かる資産は何かということを常に探しています。その対象は、日本円でもユーロでも金投資でもなく米ドルです。(2014年9月の動き)
●東京金チャート:9月24日場中は4272円と円安の分だけNY金価格が下落傾向の中で高値を維持している。
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●米ドル/円の週足チャート:9月に入りドル高円安に急上昇
●米ドル/円の週足チャート:14年5月5日の1.3993をピークにユーロ安
DMMFX
ユーロと日本の弱さ
米国の強さに対してユーロと日本は弱さを抱え景気回復の見込みは薄いまま。
最悪期から脱出したはずだった欧州は、ドイツと他国の格差・移民と先住民との文化相違・ウクライナ紛争の余波を受けて景気回復の目処が立ちません。
ECBは、政策金利の引き下げ・量的金融緩和の方向へと追い込まれておりユーロ安を追認せざるを得ない状況。
日本も、アベノミクスで株価上昇・東京五輪で土地価格上昇も消費税増税によるGDPの落ち込みや社会の活力不足で円高の目は少ない状況で日銀の追加緩和があるかもしれません。
2014年は地政学リスク高まるも米金融政策の影響
結果的に、2014年に生じた地政学リスクの高まりは、日米欧の金融政策の違いによるドル高選考へと動いたことで金価格上昇には繋がらず。元々、米国の量的緩和終了と金利上昇は金価格の下落要因だったのでリスクが高まった分だけ価格は維持されたと考えるべきかも。
RJOフューチャーズ(シカゴ)の市場担当シニアストラテジスト、トム・パワー氏によると、世界情勢悪化は金価格上昇に寄与と分析。
「産油国で戦闘が発生しているにもかかわらず、市場関係者が世界の原油供給の現状に満足しているのは明らかだ。経済成長への懸念から需要が急増する可能性は低い」と指摘。「一方、世界各地での情勢混乱を理由に金価格は上昇している」と述べた。
今後の予想としては、米金利上昇が早いピッチで進むと金価格は下落。米国がシリア空爆を行いイスラム勢力との争い激化やロシアとウクライナ紛争再開などリスクが高まると上昇。また、米国の出口戦略で新興国にダメージを与えると不確定要因が出てきます。