エジプト情勢が悪化して以降、金価格は上昇を続けています。さらに、シリアの化学兵器使用疑惑からファンドの買いが入り一段高となり、NY金価格は8月26日に1400ドル台を回復し、週末は1396.1ドルで引けました。
目次
中国や欧州の景気回復でシリア情勢前から兆し
元々、夏以降に中国や欧州の景気の回復基調が見られていたところに中東の地政学リスク増加が上昇の引き金を引く結果。
まだ、終息しきっていないとはいえ、欧州の債務問題は一服し、IMFも2014年の欧州経済はプラス成長を見込んでいます。
アメリカのウォールストリートジャーナルが良い記事を8月9日に書いています。
中国経済は6カ月にわたる減速のあと下げ止まりの兆しを見せており、米景気が着実に改善し、欧州がリセッション(景気後退)から抜け出しつつある中で、世界経済をめぐる明るい見通しが強まった。
・中国の7月の貿易収支は178億ドルの黒字となり、黒字額は6月の271億2000万ドルから縮小した。
・7月の輸出は前年同月比5.1%増と、エコノミスト予想の2.8%増を上回った。6月は3.0%減だった。
・輸入は同10.9%増加した。6月の0.7%減から大幅に改善するとともに、エコノミストの予想1.3%増を上回った。
ウォールストリートジャーナル
NY金価格の日足チャート:エースCXオンライン
1200ドルを底値に上昇を開始し1400ドルに到達しました。これまでのところ1200ドルが金相場の底値となっています。
東京金価格は4400円台を回復
シリア政府への攻撃は英独が不参加
化学兵器を使用した疑いでアサド政権に打撃を与えたい米国ですが、すんなり攻撃とはいかないようで。
元々、国連では、シリア政府をロシア・中国という常任理事国が支援している関係上、安保理で決議することは難しく有志連合で進めるしかない状態でした。英国のキャメロン首相・ヘイグ外相、フランスのオランド大統領などがアサド政権の化学兵器使用を非難し、攻撃は29日にと報道されながら一時後退しています。
最大のポイントは、英議会の反対。キャメロン首相が29日提出したアサド政権非難の決議が英下院に否決され、攻撃どころか非難決議ですら議会で通らなかったのです。
これは、もちろん、2003年のイラク戦争が議員の頭にあるからでしょう。実際、反政府側が化学兵器を使用したとの話も過去にあり、証拠がはっきりと示されない限り英国の軍事介入は難しいかもしれません。
フランスは、オランド大統領が引き続き参加を表明していますが、ドイツは30日にウエスターウェレ外相が攻撃参加を考えていないと表明しメルケル首相も追認しています。
今後のスケジュールと攻撃Xデー
8月31日:国連調査団がシリアを出国予定
この間が有力!
9月3日:オバマ大統領がスウェーデンへと出発
9月4日:フランス議会、シリア情勢を議論する臨時会議を開催
9月5日・6日:G20首脳会議(ロシアで開催)、シリア問題以前から開催予定の会議
G20(サンクトペテルブルク)でも各国の賛成を得られていません。
なぜアメリカがシリアを攻撃するのか
欧州の反応を見ても米国民の反応を見ても。もう戦争はこりごりと厭戦気分が高まっています。
なぜなら、9.11以後に起きた、イラク・アフガニスタンの戦争に対して政府が国民に話していた戦争への動機や証拠が嘘だったために信頼が失われました。その上、本当の勝利を得られなかったことが影響しています。
なぜ、わざわざリスクを負って攻撃を行うのでしょうか。
1.化学兵器の使用
化学兵器や核兵器など大量破壊兵器の利用は許さないということがアメリカの方針としてあります。世界の治安と安全保障の第一人者として、紛争や内戦において許せない範囲を破られるわけにはいきません。もし、シリアのアサド政権が化学兵器を使ったのにアメリカが行動しないとダブルスタンダードそして弱みを見せることになってしまいます。
そして、イラン(重要)、イスラエル・パキスタン・北朝鮮などに口実を与えてしまい、世界の安全が揺らぎます。
2.中東におけるアメリカの影響力
シリア政府は、ロシア、中国、イランなど米欧にとって潜在的なライバルが支援しています。
アメリカが何もせずに、シリア政府の勢いが強まれば、イランやロシアが勢いづき、中東全体に対してのアメリカの影響力を失います。
3.人道的問題
アメリカは、正義の国という意識を強く持っています。世界で起きる残酷なこと・可哀そうな事態に対してもっとも涙を流す国民でもあるでしょう。
1.2の理由に人道的問題を合わせるとオバマ政権が攻撃を行う理由が見えます。
市場はリスク回避で金投資を行う
この情勢を受けて市場は、金や国債・円などの安全資産に資金を移しています。さらに、地域的要因で原油も上昇。
一方、株式や新興国通貨は売られている状態です。
日米株価とGold・WTIの日足:GMOクリック証券の比較チャート
株価下落と商品相場の上昇がくっきりと明暗
今後の情勢と2013年9月の金価格
欧米の世論は、「ミサイル攻撃など強硬策は不可避」も、以後の対応策が難しいと考えています。
・アサド政権を打倒しても受け皿となる勢力がない。
・逆にアルカイダ・ヒズボラ・イランなど欧米に好ましくない政権ができる可能性。
・欧米の軍隊派遣は避けたいがミサイル攻撃では化学兵器使用を止める効果しかない。
以上から軍事介入(ミサイル攻撃)があっても、早期終了し、一旦、金売り・円売りになるという意見も出ています。
その後は、中東情勢がさらに混乱していくか落ち着くかで金価格の行方が決まります。
ただし、もう一つの山場である9月のFOMCで米FRBの量的緩和縮小が決まると金相場が値下がりする可能性があることにもご注意ください。12月より9月の可能性が高まっています。
しばらく、乱高下の予感がします。
2013年8月31日