1500ドルを挟んだ工房が続く金価格。このところ、2,000ドルや5,000ドルという景気の良い目標が、市場に踊っているのは、すでに紹介したとおり。それでは、2019年春以降、金価格の動きが変化した理由をまとめておきましょう。
2019年春以降に金価格が上昇した理由
- 米中の貿易戦争
- 世界的な景気後退への恐怖
- 金融引締から緩和への方向転換
- 中東をはじめとする地政学リスク
- 通貨安戦争
米中の貿易戦争と景気後退への恐怖
米国のトランプ大統領と中国の習近平主席がメインプレイヤーとなるバトル。国の威信と未来を賭した貿易戦争。
これが、世界的な景気後退への大きなリスクになっています。この影響で、中国経済は弱まり、ドイツ経済にも影を落としています。そのため、ECBのドラギ総裁は、半年しか耐えられずに、量的緩和再開へと追い込まれました。
さらに、トランプ政権は、中国企業の米市場上場廃止も検討中。ピーター・ナバロ大統領補佐官をはじめとした政権首脳はこの話をさすがに否定すしています。しかし、過去にあったことを考えると単なるブラフとは言い切れません。レイ・ダリオ氏の言葉を紹介してみましょう。
「何が実行可能で何が実行されるかを見通すには、1930年代終わりから1940年代初めまでの米政府が行った日本人の資産凍結と日本への石油禁輸を見るとよい。これらは、特別非常権限がどのように大統領にこうしたことを実行する力を与えるかを示している。」中国企業の米国内上場廃止
第二次大戦前、貿易戦争からリアルな戦争に発展していく過程で、日本の資産凍結やABCD包囲網が行われたのは、教科書にも乗っています。
現在は、昔と違い、中国も米国以外の資源ルートを確保。過去の戦争の経験から、戦争への恐怖・反対意見が強いゆえに、そう簡単に、同じ道を歩まないと信じたいところですが、終わらないチキンレース・・・一抹の不安は拭えません。
レイ・ダリオ氏は、1930年代の終わりと同じであり、歴史は繰り返すと方向に肩入れをしている様子。
もし、米中貿易戦争が激化していけば、双方、経済的なダメージを受けます。それゆえに、トランプ大統領が折れるという予想も出ていますが、トランプ政権と彼のブレーンは、そんなことは織り込み済み。もちろん、大統領再選を狙う以上、経済悪化は避けたいので、減税や補助金・FRBの頑張りに期待しているのでしょう。
そうなると、日本と同じ道を歩む中国の人民元への信頼がますます、弱まります。しかも、中国は米ドルを手に入れても使えないため、今以上に、ゴールドが買われます。世界の平和にとって、いいシナリオとは言えませんが、金価格の2,000ドルや5,000ドルも夢ではありません。
一方、トランプ政権による景気下支え策によって、景気後退時期は遅れると思います。再選までは、なんとしても景気を維持する政策を打ち出すでしょうから。ジェフリー・ガンドラック氏もたびたび、ツイッターでこのことを指摘。
バブルが弾けることを当てられても、時期が難しいのは、バブル延命策が次々と出てくるからです。
金融引締から緩和へ
世界経済の悪化に伴い、FRBは予防的利下げ。ECBは、量的緩和の再開。日銀は、さらなる緩和を要求されるなど、中央銀行の動きは、引き締めから緩和へと方向転換。米国を除く先進国の金利は、マイナスに沈んでおり、相対的に金は輝きを取り戻しました。
中東をはじめとする地政学リスク
サウジアラビアとイランの対立。下落する原油価格。中東を守る意義を失いつつある米国といった要素から、中東の地政学リスクは高まっています。イエメンの反政府勢力フーシ派のサウジ石油施設への攻撃は、この地域の安全性・エネルギー施設へのテロ攻撃の効果を強烈にPRすることに成功。
ドイツ銀行の貴金属・金属アナリストのクリス・テリー氏は、ブレグジット・米中貿易戦争の緊張で生じたリスクに対する避難場所として金を推奨。
通貨安戦争
貿易戦争・関税引き上げからのダメージを軽減するため、各国は自国通貨を安くするように誘導。人民元・ユーロのの安値誘導に怯えるトランプ大統領は、FRBのパウエル議長に利下げとドル安誘導を求めています。
主要通貨、特に米ドル安は、強い相関関係を持つ金の価格を上昇させます。
それこそ、世界中の投資家が恐れている米ドルの大幅切り下げ。過去のニクソンショックに匹敵するトランプ・ショックが起きる可能性すらあります。そうすれば、ニクソン大統領と同じく、トランプ大統領の歴史に名を残せますからね。
金価格の大幅上昇論が、議論されているのは、この5つの理由が健在で、さらに、煮詰まりつつあるからです。
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