2001年に金価格は長期の下落トレンドを終え、上昇トレンドを開始。
21世紀(2001年~)に入るまでのゴールドは、緩やかな下落を続けていました。しかし、2001年の9月11日に起きた同時多発テロに続くブッシュ大統領が宣言したテロとの戦いから金相場は復活を始めました。
長くなりますが21世紀の変動理由をできるだけ分かりやすく解説しますのでお読みいただけると幸いです。
目次
金価格が下落した理由:冷戦終結や金融の発達
急激な上昇を始めた理由の前に、なぜ、下落していったのかを知る必要があります。(金の変動要因)
1.冷戦終結による平和の到来
1989年11月にベルリンの壁崩壊、1991年12月にソ連消滅による有事の金として保有する意味が減少
2.IT革命とデリバティブの進化
経済がグローバル化し、成長を早めたことで、金を保有するより株式や債券による利益が大きかった。
3.新興国の成長
グローバル経済と冷戦終結で、中国・ブラジル・インドなど新興国の急成長が始まった。
4.金利を生まない金投資
株式や債券と違い、金を保有していても値上がり益しか期待できません。配当や利子を得られる方に資金は流入します。
5.通貨の役目から装飾品・工業品としての役目
上記の理由から、有事の金・通貨としての価値が弱まり、装飾品・工業品としての役目しか果たさなくなってきました。
6.中央銀行の売却
当然、下がり続けるゴールドを保有する意味をなくした中央銀行の売却が金価格の下落に拍車をかけました。1999年にはワシントン協定により中央銀行の売却に制限を加えた程です。
7.オーストラリアや北米での産金増加
古くからの産金国、南アフリカや旧ソ連の生産は減少しましたが、オーストラリアや北米での生産量が増加。(金の生産量とその推移)
ニクソンショックによる金本位制廃止以後もオイルショックなどのインフレで上昇した金価格は、20世紀末には「永遠の輝きを持つ憧れの資産」から「美しく工業的に有用な金属」へと地位を変化させていったのです。
そして、長らく価格低迷が続いたことで、産金会社の経営が悪化し、鉱山の閉山や新規開発の中止が相次ぎます。
●金価格の推移チャート月足:エースCXオンライン、クリックで大きく
長らく低迷を続けた後に大きく上昇トレンドが続いた後、2013年4月に金は暴落しています。
21世紀に金価格が上昇した背景と流れ
冷戦終結は、第三次世界大戦の心配を取り除き、先進国を軍事よりビジネスに向かわせました。
余った軍需産業の人材と資金がロケットサイエンティストとして、IT分野と金融分野に向かい、米国を成長させ消費大国にしたことは「根拠なき熱狂」と元FRB議長のアラン・グリーンスパン氏の警告と共に体験した方も多いことでしょう。
旧共産圏のロシア・中国も軍事や共産理論よりビジネス優先に変わりました。
9.11同時多発テロとブッシュ大統領のテロとの戦い
そこに、2001年9月11日、同時多発テロが起きたのです。それまで先進国を覆っていた安全神話を突き崩し、米国が「テロとの戦争」に踏み込んでいく瞬間でした。
金価格はすぐに上昇したわけではなく、本格的な上昇トレンドになるのは2002年からですが、明らかにここが21世紀【ゴールド復活のターニングポイント】です。
米国は、アフガニスタン・イラクと戦争を開始し、戦費を支えるために通貨供給を増やしますし、投資を民需ではなく軍事に回します。
そのために、米ドルの下落(価値減少)が始まります。
●ユーロ/ドルの月足チャート、クリックで大きく
2002年に入り、ユーロが上昇し米ドルの下落トレンドが鮮明。
2001年9月の安値:1ユーロ:0.8818、2002年の11月には1ユーロ=1ドルを超え、ピークの2008年7月には1.6038と二倍近く上昇しています。
当初に出てきた買い手は先進国の年金基金やファンドでした。
経済成長のインドや中国の金投資
ところが、そこに経済成長したインドや中国が大量に購入を始めたのです。2013年現在はインドと中国が金の二大需要国
経済成長の鈍化した日本に比べて中国・インドが成長。中国はGDPで日本を追い抜く。
インド信仰の一つは、ゴールドに魔除けの効果があると考え、娘を嫁に出す時に金製品を持たせる慣習を持ちます。
中国も過去から現在に至るまでの度重なる王朝交代の歴史と共産党政権による土地を含む私有財産禁止の歴史から、紙幣より金を好む民族性を持っています。
豊かになった彼らが、大量に金を購入し始めたことで、金価格の上昇に拍車がかかったのです。
サブプライム・リーマンショックから世界金融危機で金暴騰
アメリカの住宅ローンからはじまったサブプライムローン危機は2008年9月のリーマンショック、そして現在まで続く世界金融危機に発展します。
その過程では次々に国家の債務が増大し、事業会社・金融機関どころか国家の債務である国債すら元本保証されず目減りするというリスクが生じます。
大幅下落した株価や不動産・債券への信用もなくした世界中の個人および機関投資家が、資産の逃避先として一斉に金投資に向かったのです。
さらに、金融機関救済および国家救済のために、欧米が金融緩和を行ったためにドルとユーロの価値が下落し、その分、金へとマネーが注ぎ込まれて金価格は暴騰を始めました。
FRBの通貨供給量グラフ:リーマンショック以降、急激に増加しています。データはFRED
これだけ、米ドルが大量に供給されたわけです。でも株式も債券も信用できないとなると金投資の出番です。
ただでさえ、9.11以降、テロとの戦いや各地で小さな紛争が頻発して戦争のない世界がすぐには来ないことが人々の心理にあったわけです。
世界の産金量は減産傾向
ところが、20世紀末の価格下落により、鉱山会社の採算は悪化しており、産金量は増えなかったのです。
それどころか2001年をピークとして2008年まで減産傾向が続いたため、金価格が上昇してもすぐに増産することはできなかったことが上昇トレンドに入り需要増に追いつかず更なる高騰を招きました。
その後、2009年から増産トレンドに入り、価格上昇により鉱山会社の経営も安定して金生産を行える環境が続くことになります。
21世紀の金価格上昇理由をまとめ
それでは、なぜ、21世紀にここまで上昇したのかその理由をまとめてみます。
1.有事の金復活
同時多発テロ以降、イスラム世界と欧米キリスト教世界の対立、中東の混乱、拡大した中国など地政学リスクが高まる中で、安全性を重視した資金や資産分割の考え方により「有事の金」が復活
2.インフレの脅威
世界的に20世紀末は、穀物の生産量が増加し石油価格も下落した時代でした。ところが21世紀は新興国の台頭により穀物や非鉄金属の需要が増加し価格が上昇を始めたのです。
さらに、経済危機に見舞われた先進国が利下げや量的緩和で通貨供給を増やしたために、インフレが台頭。インフレヘッジとして金が買われます。
3.基軸通貨「米ドル」への不安
サブプライムローン危機は、米国の住宅ローンの中でもリスクが高いものを複数組み合わせることで低リスクを装ったものでした。さらに米国の金融機関が倒産し名門リーマンブラザーズが倒れる状態に陥り、米国への信頼が揺らいでしまいます。
危機を救うために行った量的緩和は米ドルの供給量を増やす政策で、ドルの価値を下落させることになります。そのため不安を抱えた投資家の【Gold】選好を強めます。
関連性の強さは時期により異なりますが、ドルの代替としての役目を持ち、ドルが売られると金が買われ、ドルが買われると金が売られる関係を持ちます。
4.世界金融危機から欧州のソブリン(国債)危機
サブプライムローン危機は、最終的に欧州のソブリン(国債)危機を招きます。
ギリシャ・ポルトガル・アイルランドなど欧州国債への信頼と通貨「ユーロ」への信頼は大きく揺らぐ結果になりました。
現在も、スペイン・ギリシャ・ポルトガルなどの南欧州の危機は収まっていませんし、日本の国債も債務の増大によりいつか暴落するのではと常に話題に上ります。
そのため、国債を売って金に乗り換える動きが金融危機以降に目立ちます。
5.中央銀行の金買い
1990年代には金利が付かない上に価格も低迷したことから、中央銀行は保有している金を売却していました。
そして、その売却が更なる下落を呼ぶ悪循環を起こしていたために、1999年のワシントン協定で売却量を制限し、近年の金融危機と新興国の台頭で金を購入する中央銀行が増えています。
資産ポートフォリオの観点から各国中央銀行は保有金の売却を進めてきたが、99年9月に売却量を制限するワシントン合意がなされた後売却量が減少、さらに近年は金融危機の影響もあり、新興国中心に購入する国が増えている。
6.中国・インドなど新興国の金投資
新興国は先進国に比べて株価・不動産など資産価値が安定していません。しかも歴史的に政権や紙幣に対する信頼が薄い国が多いことが特徴です。
そのため、実物資産として、昔から信頼されていた金投資を好む国民性が強く経済成長により金購入が増えています。
7.金ETFの登場で投資しやすく
株式や債券への投資は、インターネットでカンタンにできるようになりましたが、金投資がもし金地金を購入保管することしかできないとつらいですね。
特に、機関投資家にとって、金保管リスクや売買の容易さは大切です。
そこで、2003年に金地金を証券化した金ETFの登場で年金基金を初めとする機関投資家の金投資がカンタンにできるようになりポートフォリオに組むこむ例がふえました。
金価格の下落と今後のポイント
このように、1トロイオンス250ドルだった金価格は、一時2,000ドルをうかがう勢いで上昇を続けました。
2011年9月6日の高値1,923.7ドルをピークに下落に転じましたが、また、いつトレンドが変化するかは分かりません。
根本的な上昇要因である「有事の金」「先進国の経済危機」は完全に解消されたとは言えません。
現在、金価格に大きな影響を与えるポイントです。
1.米国FRBの量的緩和縮小と米景気
2.エジプト情勢を中心にした中東の情勢
3.ユーロ圏の経済危機
4.中国やインドなど新興国の経済危機
インドでは金輸入関税など規制がかけられています。
21世紀はまだ始まったばかり、これからのゴールドはどうなるのでしょうか?
専門家による2013年後半の予測もお読みください。
金投資で上手く利益を出すためにも、これらのポイントに注意して売買を行いましょう。
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まだまだ、これからも金価格は動いていきます!